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2025/08/15

この曲弾いたのわたしだけ!?…サイレント映画の伴奏曲「アンダンテドロロソオ」

大正~昭和初期のマンドリン楽譜の中に、サイレント映画のための伴奏曲集をみつけて大興奮!

いつかサイレント映画のマンドリン楽士になりたいと思いながら、ぼちぼち修行中です。

今回紹介するのは、

「現代映畫伴奏曲集 後編」(5)Andante Doloroso アンダンテドロロソオ/mandolin


楽士向け?愛好家向け?マンドリン楽譜

使った楽譜はこれ!1927年(昭和2年)発行の市販楽譜です。
こちらは古書店通販サイト「日本の古本屋」にはなく、メルカリで購入しました。
当時の映画は、サイレント(無声映画)だったので、説明も音楽もその場で行っていたんですって。
今考えると、かえってぜいたくにも思えるし、弁士と楽士によって映画の印象がまったく違ったものになりそうですね。
それにしても、この楽譜を使った楽士はいたのでしょうか、それともヴァイオリンやマンドリンが好きな人のための市販楽譜なのでしょうか?

《表紙》
シンフオニー ヴァイオリン マンドリン 楽譜
SINFONIE VIOLIN OR MANDOLIN SOLOS
現代映畫伴奏曲集 後編
映畫音樂研究會編 NO.4


裏表紙《奥付》
昭和二年七月一日印刷
昭和二年七月三日發行
定價 金五拾錢
編者 映畫音樂研究會
印刷發行者 草野 茂
東京市牛込區西五軒町三十四番地
發行所 シンフオニー樂譜出版社
電話牛込六九〇九番
振替東京六九一二七番



《楽譜》
(5)Andante Doloroso
  アンダンテドロロソオ
  (O. LANGEY)
  秋の落葉、物寂しき場面

「ドロローソ」でなく「ドロロソオ」という表記に、時代を感じますね。
音符の下に書いてある数字は、ハーモニカ用の楽譜です。

作曲はオットー・ランゲ

楽譜に作曲者名が書いてあったので、原曲探しは楽でした。

作曲者はオットー・ランゲ Otto Langey(1851~1922)
この方はもともとチェロ奏者ですが、クラリネットやトロンボーン、サキソフォン、フルートなど様々な楽器の教則本や練習曲を書いたそうです。

サイレント映画の伴奏曲

原曲の楽譜は、1920年にボストンのOliver Ditson Companyより、「Ditson's Music for the Photoplay No. 37として発行されています。
題名はAndante doloroso、副題にfor scenes expressing pathetic emotion。哀れな感情を表現するシーンに使うということでしょうか。

①ノーステキサス大学のサイト「UNT Digital Library」でパートごとの楽譜が見られます
ピアノパート   
こんなにあるんかい!?
そんなに大勢で映画の伴奏をしなくても、ピアノとあと何かのパートを組み合わせれば曲として成立しそうです。

おっと、ピアノの次のページに、オルガンパートもあるのね!

予想していましたが、わたしの弾いた楽譜は、原曲の3分の1程度の長さでした。

他の人の演奏がみつからない…

YouTubeで見かけるのは
・ランゲさんが書いた各種楽器の教則本や練習曲の演奏(けっこういろいろある)
・ランゲさんがオーケストラ用にアレンジした曲の演奏
・「Mexican Serenade(Mandolina)」の演奏
   ↑メキシコ…?マンドリン…?まあいいでしょう。
でも「Andante doloroso」については、現代の演奏もSPレコードも見つかりませんでした。
いや~、もちろん動画に上がらない演奏も世の中にはたくさんあると思いますが、みつかるものとみつからないものの差がはげしいな!ザメクニックさんは数多くあるのに…。
今後も探してみますね。


ほかにもいろいろ弾いたり、原曲を探したりしています。
このブログの「大正~昭和初期のマンドリン楽譜」の記事や
ikekomandolinのYouTube再生リスト「大正~昭和初期のマンドリン楽譜を弾いてみた」、
お時間ありましたらごらんください。

2025/07/20

30年前のCMに使われた「太湖船」、100年前の日本でも…♪サイレント映画の伴奏曲集より

昭和初期に販売されていたマンドリン用の楽譜をゲット!

同じ時代に作られたマンドリンで弾きながら、当時はやっていた音楽を味わっています。

今回弾いたのは、「太湖船」(たいこせん)。


「現代映畫伴奏曲集 前編」(8)太湖船/mandolin


使用した楽譜は…

映畫音樂研究會編 NO.3
「シンフオニー ヴァイオリン マンドリン 樂譜 現代映畫伴奏曲集 前編」
 

《奥付》
昭和二年五月一日印刷
昭和二年五月三日發行
定價 金五拾錢
編者 映畫音樂研究會
印刷發行者 草野 茂
東京市牛込區西五軒町三十四番地
發行所 シンフオニー樂譜出版社
電話牛込六九〇九番
振替東京六九一二七番


この曲集の1ページ「映畫伴奏振附解說」では
(7)沙窓 支那劇或は日本映畫中の支那街等の場面に用ひらる。
と並んで
(8)太湖船 同上場面又は室内等ののんびりしたる場面に用ふ。
と書いてあります。
「沙窓」は、前に弾いてみました

楽譜には、「(8)Chinese 太湖船」と題名はあるものの、作曲者は書かれていません。

中国の民歌

「沙窓」でも紹介した、加藤徹先生の「明清楽資料庫」というサイトに
中国の「民歌」 ~長崎清楽として伝わらなかったもの として、この「太湖船」が紹介されています。この曲は明清楽ではなく、中国の民歌(民謡)なんだそうです。歌詞も載っているので、ごらんください。
「太湖」は、中国に実在する湖の名前なんだって。
美しい湖の風景が想像できる、ゆったりとしたメロディです。

楽譜さがし

①流行した当時の出版楽譜

わたしがたびたびお世話になっているインターネット古書通販サイト「日本の古本屋」では、古い楽譜が売られています。
・楽譜 支那名曲 「太湖船・黄河の漣」ヴァイオリン マンドリン獨奏曲(大正12年、アサミ楽器店)
・楽譜)太湖船 支那楽第五編 (大正13年、大阪音楽協会)
・楽譜【太湖船・沙窓/模範ハーモニカ楽譜】(大正15年、模範楽譜出版社)
・楽譜つき絵葉書 (5枚のうち1枚が「太湖船」)←これは時期不明

②宮沢賢治も弾いたとか

「みちのくの山野草」というフログで、『宮沢賢治の世界展  生誕百年記念』(朝日新聞社、1995年)という本を紹介していました。(「日本の古本屋」でも手に入ります)
なんと、その本には宮沢賢治の自筆ガリ版刷り楽譜が載っていて、賢治がチェロを弾くために書いたとのこと!
宮沢賢治がチェロを習ったのが大正15年というから、上記の販売楽譜とも時期が合いますね。そのくらいよく知られた歌で、簡単に弾ける曲なのでしょう。

③現代の楽譜あります

現代でも、楽譜が販売されています。オンラインショップでも入手できるのですね!
ハーモニカ、小学生向け器楽合奏、二胡の楽譜がありますね~。
二胡は中国の伝統的な弦楽器で、この曲はとてもよく合います。

・楽譜@ELISE…太湖船 中国民謡、久行 敏彦 編曲 器楽合奏譜   東京書籍株式会社 楽譜集「小学生のためのアンサンブル曲集~トップ・オブ・ザ・ワールド」より


レコードききくらべ!

SPレコードを再生している動画って、けっこうたくさんありますね。
この曲について調べてみると…
曲のイメージとは異なり、なんだかずいぶん勇ましいマーチになっているものが多いです。

【太湖船】 帝国海軍軍楽隊 1909年録音
ニッポノホンレコード、1242。
概要欄に「録音 1909(明治42)年秋」と書いてあります。おお、じつはけっこう古いのね。


清曲 太湖船  ― 帝國海軍々樂隊󠄁(1909年)[Nipponophone 1242]
上と同じ、ニッポノホンレコード 1242です。


太湖船  taikosen  帝國海軍軍楽隊
帝國海軍軍楽隊 ニッポノホンレコード 1242
上2つと同じ、1242ですね。
78MUSIC」のニッポノホンレコードの目録を見ると、1242の発売年は書かれていないものの、前後のレコード番号から、1918年から1925年の間に発売されたと推測できます。
(株)日本蓄音器商会が5種類のレーベルをワシ印の「ニッポノホンレコード」というレーベルに切り替えたのは、大正4(1915)年だそうです。
実は、一番上の動画の概要欄には、「初版は獅子印ローヤル。」と書かれています。
この1242は、1909年に録音して発売された獅子印ローヤルのものを、ワシ印ニッポノホンのレーベルで再発したものでしょうね。


【清楽演奏】 04 太湖船 【SP盤】
東亜音楽部の演奏。片面2曲ずつ入っているレコードで、
この裏面は以前紹介した「沙窓」が入っています。
鳩印のトーアレコード(TOA-RECORD) は、東亜蓄音機株式会社より1920年~1923年に発売されていたそうです。

太湖船  武蔵野管弦楽団 支那楽
東京レコード  3177A 東京蓄音機株式会社製
ピアノも入っているのかな?
西洋の楽器を使っていますが、こちらはゆったりした演奏です。
東京蓄音機株式会社は大正12(1923)年に(株)日本蓄音器商会に買収されたそうなので、1923年までに出たレコードでしょうね。


大湖船 戸山学校軍楽隊
ニッポノホンレコード 15738-A 春日学長指揮
78MUSIC」というサイトで調べると、1925年7月のレコードですって。
前半と後半は太湖船どこ行った!?という感じの、吹奏楽で威勢のよいマーチ!
中盤に太湖船のメロディが出てきます。
この楽曲は、フランツ・エッケルト作曲「太湖船行進曲」でした。
フランツ・エッケルト(1852ー1916)はプロイセンの軍楽家で、1879~1899年に日本で洋楽教育に携わり、作曲・編曲をしたのだそうです。


燕印のニットーレコード2140、「太湖船」と「沙窓」が続けて入っています。
「ベル獨奏 田中耕二」だそうです。
78MUSIC」の目録を見ると、近い番号のニットー赤盤から、1926年あたりに出たものと推測できます。
※このブログ内では再生できないので、クリックしてYouTubeでごらんください


支那音曲玉手箱 金蓮江・太湖船  第3 西條管弦楽団
ポリドールレコード472-A
片面に2曲入っており、1分30秒から「太湖船」が始まります。
「金蓮江」はゆったりした曲ですが、1分30秒から始まる「太湖船」はマーチ。
ズンタ、ズンタ、ズンタッタッタ、ズンタ、ズンタ、ズン、ゴーン♪
78MUSIC」というサイトにポリドールレコードの番号472は載っていませんが、470と474は1930年の発売なので、これも1930年ではないかと考えられます。


太湖船  大日本帝国海軍々楽隊  吹奏楽
パーロホン レコード E 1331-A (96768)
あれ、レーベルは違うけれど、ニッポノホンレコードと同じ演奏じゃないの?
でもよ~く聞くと、ニッポノホン版は、イントロが
「バァン・ドン、バァン・ドン、ドンドンドンドンドン♪」ですが、
こちらは「バァン・ドン、バァン・ドン、バンバンバンバンバン♪」だから、
同じ海軍軍楽隊でも演奏時期は異なるのでしょうね。
Wikipediaや「78MUSIC」を見ると、日本パーロフォン(パーロホン)は1929年~1934年にあったレコードレーベルだそうです。その間に発売されたのでしょうね。


ハーモニカ 太湖船 豊田義一
ヒノマルレコード、年代不明。
「ザリガニ」さんの「何処を開けても骨董だらけのホームページ」にある「SPレコード・レーベル図鑑」によると、ヒノマルレコードは、ショーチク(昭蓄)レコードスタヂオが出していたレーベルの一つだそうです。ショーチクレコードスタヂオは昭和6年~昭和15年頃まであったそうなので、このレコードも1931~1940年の間に発売されたと考えられます。


サントリー ウーロン茶CMソング  太湖船( 歌詞付き) フルver.
1995年のCMソング。これはわたしもリアルタイムで聴きましたよ。
わたしが小さいころは、中国の歌というと女性が高い声で歌うイメージがあったけれど、
このCM曲では素朴に可愛く歌うのが意外で、新鮮に感じられました。
※このブログ内では再生できないので、クリックしてYouTubeでごらんください


二胡演奏---太湖船 20170811
二胡の先生が演奏している動画のようです。
二胡、いいですね~。

日本で根強い人気の、中国の歌

なるほど、この曲は中国の民歌で、日本ではSPレコードでいろんなバージョンで録音、発売され、再発売もされていたのね。SPレコードだけでも明治から大正、昭和と時期が幅広いので、「ティティナ」のような一時的な爆発的流行ではなく、根強い人気の曲ということなのでしょう。
日本人にとって、この曲は中国のイメージを呼び起こす代表的な曲だったからこそ、当時の映画伴奏曲集にも収録されたのでしょうね。少なくとも、アメリカで発行されている、ザメクニックさん編集の映画音楽曲集には無い楽曲です。
エッケルトさんは、日本でよく知られているこの曲でマーチを作って、日本の洋楽教育に活かしたのでしょうね。
しかも30年前に日本でCM曲としてリバイバル、今でも二胡や器楽の楽譜があり、日本でも中国でも演奏されています。

今回は、SPレコードの発売年がレーベルに明記されていなかったことから、レコードレーベルの歴史にまで足を突っ込んでしまいました。
一つのレコード会社で複数のレーベルを作っていたり、たくさんあったレコード会社が買収され淘汰された歴史があったようで、奥が深すぎました…。
なまらマニアックな世界です。

2025/06/30

【2020年】昭和3年の楽譜を弾いてみた♪大流行曲「ティティナ」(大正~昭和初期のマンドリン楽譜出版)

【過去記事】2020年10月に、引っ越し前のブログにて書いた記事に、【レコードききくらべ!】をつけ加えたものです。

2025.5.7  ききくらべ動画を一つ追加しました。

2025.6.30 ききくらべ動画をもう一つ追加しました。

大正~昭和初期のマンドリン楽譜を弾くきっかけとなった曲です。


2020.9.26に開催された、Facebookのマンドリンイベント「まんどりんかふぇvol.7(オンライン)」のために撮った演奏動画を紹介します!

「ティティナ」 レオ・ダニデレフ 作曲 
Titina(Leo Daniderff)
arr. by K.Yoshida


Rolandの「4XCAMERA」というアプリを使って、ダブルいけこでお送りします。

これね…、今、わたしの中で大ブームの曲なんですよ!


↑これこれ!ちょっと、いやかなり、古そうな楽譜でしょう?
「日本の古本屋」というサイトを通して、名古屋の伊東古本店さんより購入しました。
昭和3年(1928年)出版の、シンフォニー楽譜出版社から出た、ヴァイオリン・マンドリン二重奏の楽譜なんですよ。
わたしの使っているエンベルガーマンドリンは1927年制作だから、この楽器で弾くのにぴったりでしょ!

↓楽譜には、「大流行曲 ティティナ」と書いてあります。

なぜこの曲を演奏したのか?
話せば、やや長いかも…。

100年前のダンスミュージック

もとはといえば、マンドリンのために作られた、アメデオ・アマデイの「Dody(ドディ)」という曲を練習していたのですが、その楽譜に「Foxtrot」と書いてあったのですよ。
フォックストロットって、何?どんな感じで弾けばいいの?
そんな疑問から始まりました。

そういえば、フォックストロットって、社交ダンスでそういう種目がありますよね。
でも、社交ダンスや競技ダンスの動画を観てみると、ゆったりした曲で踊っていて、「ドディ」の曲とは何か違う雰囲気です。
実は、現在社交ダンスや競技ダンスで「フォックストロット」と呼ばれているのは、1929年ごろに始まったという、イギリス式の「スロー・フォックストロット」なんですって。

アップテンポな曲の方は、1910年代に流行った、アメリカンスタイルのダンスミュージックなんだそうです。
ペアで、手を取り合って踊るダンスです。
  
Wikipediaより
「1913年 ハリー・フォックス(Harry Fox) が、自らがマネージャーを務めていたダンスホールに於いて、自らの名を冠したダンスを発表する。」
「当時のフォックストロットは、今日のクイックステップやジルバに近い、スピーディーでアクションの激しいダンスだった。」

あっ、キツネは関係ないんだ!へえ~。
Wikipediaによると、フォックストロットが生まれる前に「ワンステップ」というダンスもあったそうです。
アマデイの曲に、One-Step「Cupido」(クピド、あるいはキューピッドというのかな?)という曲もあります。
(日本マンドリン連盟北海道支部会報No.206の添付楽譜にありました)
アメデオ・アマデイさんは、1866~1935年に生きていた人。
ということは、マンドリン界で超有名なアマデイさんも、当時流行したダンスミュージックを作ったということなのね!

1927年の映画「ジャズ・シンガー」より。
「世界初」のトーキーと言われる、部分的に同期音声を使っている映画です。
当時の雰囲気が、伝わってきます。

大流行曲「ティティナ」

フォックストロットの楽曲をYouTubeで検索したところ、古いレコードを見せながらターンテーブルで再生する動画にヒットしました。
こういう動画って、けっこうあるんですね。日本の方も、海外の方も、こういう方法でレコードコレクションを見せています。
「Foxtrot」で検索すると、多く出たのが「ティティナ」でした。やはり「大流行曲」なのでしょう。
1925年ごろに、数多くの楽団が、レコードを作っているようです。
楽団によって速さやアレンジがけっこうちがうのも、興味深いです。終わり方のコードがメジャーかマイナーか、とか…。

【SPレコードききくらべ!】

Titina, Fox Trot- International Novelty Orchestra 1925
インターナショナル・ノベルティ・オーケストラの演奏、1925年のレコード。
概要欄を見ると、ボーカルはアーサー・ホール Arthur Hall だそうです。

「ティティナ "Titina"」
上と同じ、インターナショナル・ノベルティ・オーケストラの演奏(1925年)。
説明欄は日本語で、この方の持っているレコードについて、詳細に語られています。

Titina - Fox Trot, by Billy Wynne's Greenwich Village Inn Dance Orchestra
ビリー・ウィン グリニッジ・ヴィレッジ・イン ダンス・オーケストラの演奏、1925年のレコード。

Titina, Fox Trot- Carl Fenton´s Orchestra 1925 (Je Cherche Apres Titine)
カール・フェントン オーケストラの演奏、1925年のレコード。

 
Titina. Ben Bernie and His Hotel Roosevelt Orchestra
ベン・バーニーとホテル・ルーズベルト・オーケストラの演奏、1925年。
2つの動画でレコード盤の色が違いますが、聴いてみると同じ演奏のようです。

(1925) Ben Bernie - Titina (song from Modern Times sung by Charles chaplin).
おおっ、こちらはベン・バーニーの演奏の様子ですよ。ドラムが入ってテンポ速い!

THE KNICKER BOCKERS TITINA
ザ・ニッカボッカーズの演奏。
といっても、1964年結成のロックバンドではないですよね!
このレコード、日本語で「ティティナ」「フォックス トロット」と書いてありますね。ボーカルが入っていますが、だれでしょう?

"Titina" (from Puzzles of 1925), The Promenaders
ザ・プロムネイダーズの演奏、ボーカルはビリー・ジョーンズ Billy Jones
途中で「ヴォルガの舟歌(エイコーラ~♪)」とか「アンダンテ・カンタービレ」の一節が入るのがおもしろい!

Billy Murray - Titina, 1925
ビリー・マレーの歌、1925年。


【追加!】
Titina [Fox Trot] Maffia-Laurenz (1925)
なんと、Pedro Maffiaさんと Pedro Laurenzさんによる、バンドネオン二重奏です。
イントロはインターナショナル・ノベルティ・オーケストラのアレンジに似ていますね。
Seesaaブログ版「えぶたんのほっぺ」を読んでくださった方から、教えていただきました。ありがとうございます!

Léonce - Je cherche après Titine (Léo Daniderff)
フランス語で、「ティティナを探して」という題のようです。
ジャケットには、「Le Grand Succes de Léonce au Moulin Rouge」
(ムーラン・ルージュでのレオンスの大成功)とあります。歌手の名前はレオンスさん?

コスモポリタン・ノベルテー・オーケストラ - ティティナー
出た!ニッポノホンレコードから出た日本版「ティティナー」
「唄 少女合唱」による日本語の歌詞と、曲への乗せ方が、ものすごい(笑)。
でも、手持ちの楽譜に一番近いアレンジは、これかもしれません。
それにしても、チューバでしょうか?少女合唱が入ってからベース音がずっと1小節ずれているように聞こえるんですが!!どうなのこれ!?


【追加!2025.6.30】
TITINA(チチナ)/カルトン・ジャズバンド(昭和2年)
1927年のレコードです。フィリピンのバンドによる演奏だそうです。
なんとまあアップテンポ!!

羽衣 歌子 ♪ティティナ♪ (Titina) 1931年 78rpm record . Columbia . No. G - 241 phonograph
日本語歌詞の「ティティナ」。ウエイン コールマン ジャズバンドの演奏、羽衣歌子さんの歌です。1931年のレコード。

【年表的に並べてみると】

フォックストロットのダンスが流行る(1913年~)
   ↓
「ティティナ」が作られる(1917年、レオ・ダニデレフが作曲)
   ↓
「ティティナ」が世界的に流行、レコード売れる(1925年)
   ↓
日本でも楽譜発売(1928年)
   ↓
羽衣歌子さんが日本語歌詞で歌う(1931年)
   ↓
チャップリンが映画のなかで「ティティナ」を歌う(1936年「モダン・タイムス」)

と、ちゃんと時代が合致していますね。
(いやもうほんと、ワタクシ歴史ダメ子なもんで、こういうのを知ると、新鮮な驚きを感じます!いつも新鮮!)

【「東京ティティナ」もあるよ】

「ティティナ」を見つける少し前に、チャラン・ポ・ランタンが歌う「東京ティティナ」の動画を観ていました。
こちらは、“バイヨンの女王”と言われた生田恵子さんが歌った「東京ティティナ」(1953年)の、カバーです。
基本のメロディは「ティティナ」と同じですが、別のメロディが加わって、なんかアラビアっぽいところもあったりします。
(ちなみに、生田恵子さんは「私のマンドリン」という曲も歌っています。バックでマンドリンが演奏されています。)
ステイホーム中に出会ったチャラン・ポ・ランタンと、回りまわってこんなところでつながっているのも、またおもしろいものです。

約90年前のマンドリン楽譜!

楽譜の方に話を戻します。

2025/05/04

サイレント映画の伴奏曲集♪明清楽から復興節!?「沙窓」(紗窓)

サイレント映画の伴奏曲集、しかも“ヴァイオリン・マンドリン楽譜”が、昭和初期に市販されていたんですよ~。

マンドリン用の楽譜ですって!?それは弾かねば!

というわけで、今回弾いたのは…

「現代映畫伴奏曲集 前編」(7)沙窓/mandolin


使用した楽譜はこちら!

映畫音樂研究會編 NO.3
「シンフオニー ヴァイオリン マンドリン 樂譜 現代映畫伴奏曲集 前編」


《奥付》
昭和二年五月一日印刷
昭和二年五月三日發行
定價 金五拾錢
編者 映畫音樂研究會
印刷發行者 草野 茂
東京市牛込區西五軒町三十四番地
發行所 シンフオニー樂譜出版社
電話牛込六九〇九番
振替東京六九一二七番


1ページ「映畫伴奏振附解說」では
「支那劇或は日本映畫中の支那街等の場面に用ひらる。」とあります。


それにしても、この曲は「Sam Fox Moving Picture Music 」や「Schirmer's Photoplay Series」のようなアメリカの映画伴奏曲集には入っていません。
日本の曲?あるいは日本で流行った曲なのかな?
と思って調べたら…

もともとは明清楽「紗窓」

わたしの弾いた楽譜やSPレコードでは「沙窓」と書いてありますが、もともとは「紗窓」と書いて「さそう」と読むそうです。
明清楽(みんしんがく)といって、中国が「明」、あるいは「清」の時代に日本に伝わった音楽を、月琴や唐琵琶、笛などの楽器を弾きながら歌うんですって。
月琴いいなー、ひいてみたい。

「紗窓」の曲や歌詞について、明治大学教授の加藤徹さんが「加藤徹のホームページ」内の「紗窓(明清楽資料庫)」で、明清楽から長崎民謡、復興節まで資料を集め、とても詳しく紹介していますよ!

明清楽で歌う漢詩[HD] karaoke 「露月」「紗窓」
上記の、加藤徹先生が公開している動画です。
歌詞は李白の七言絶句だって。うわー、漢文でお目にかかったあの李白ですか!!
読み方も出てくるので、みなさんご一緒に歌いましょう。さん、はい!

長崎の明清楽 第41回長崎郷土芸能大会 長崎市民会館体育館 20161002 150102
なんと!現代も演奏されている明清楽。2016年の演奏です。
しかも14分0秒から「紗窓」が入るよ!優雅な演奏です。

長崎県長崎市のサイトで紹介されていますが、「長崎明清楽」は県指定無形文化財になっているんだって。うお~すごいな!!「紗窓」は、原語で歌っているそうですよ。

日本語の歌詞もある!

【清楽月琴生演奏】 紗窓(長崎民歌版)
「春は三月 風頭 金比羅山参りの賑やかさ…」という、日本語の歌詞がついた歌です。

SPレコードみつけた!


【清楽演奏】 01 沙窓 【SP盤】
鳩印のトーアレコード。「東亞音樂團」による演奏です。
「78MUSIC」というサイトによると、1920~1923年に発売されたレコードのようです。
なんかすごい!ズンズンズンズンズンズンゴーン!!
日本のSPレコードについて詳しいサイト「78MUSIC」に明治・大正期のレコードの目録のページがあり、このレコードについても名前が載っています。


支那音曲玉手箱 沙窓、黄河の蓮 第1 西條管弦楽団
ポリドールレコードから出ている、管弦楽団による演奏です。
メロディは、わたしの弾いた楽譜によく似ています。
それにしても、ずいぶん威勢の良いこと。

こちらは「復興節」!

大正12年、関東大震災の後に、演歌師 添田さつきが作った「復興節」。
「家(うち)は焼けても江戸つ子の 意気は消えない 見ておくれ」で始まる「帝都復興エーゾエーゾ」の歌。「紗窓」のメロディをもとにしているけれど、軽快な曲調です。
これを聞いて、元気づけられた人も多かったことでしょうね。

復興節(鳥取春陽)80rpm
オリエントレコード。ゆったりした演奏です。
街頭演歌師、鳥取春陽の最初のレコードだそうですよ。

復興節-上-(斎藤一聲)80rpm
復興節-下-(鳥取春陽)80rpm
同じレコードのA面とB面です。こちらはヒコーキレコード。
A面とB面で違う人の名前がありますが、同じ人が演奏して、二人で歌っているように聞こえますね。


# 復興節
こちらはSOUL FLOWER MONONOKE SUMMIT(ソウル・フラワー・モノノケサミット)による演奏!1995年阪神・淡路大震災の後に歌うようになったそうです。
後半で「うちは焼けても神戸っ子の…」と歌っていますね。


なるほど、江戸時代後期に清国から入ってきた歌が、日本で楽器をともなって演奏され、日本語の歌詞がついたりマーチ風に演奏されたり、はたまた震災復興の替え歌になったりして、愛唱されているんですね。
なぜこの曲が「現代映畫伴奏曲集 前編」に入ったか、わかったわ~。それだけ日本で流行したということなんですね。
そして流行は過ぎても、今も日本で大切に歌われている歌だということがわかりました。
現代の中国では、歌われているのかな?どうでしょう。そのへんももう少し知りたいです。
曲にまつわるあれこれを知ったので、わたしの演奏動画では、復興節ふう(あるいはSPレコードのマーチ風)と明清楽ふうの2パターンで弾いてみました。聴いてみてね。

2025/05/01

サイレント映画の伴奏曲集♪イースターにちなんで「エイスターモーン」

昭和初期に市販されていた、マンドリン用の楽譜を弾いてみたシリーズ!

今回弾いたのは、ザメクニックさんの「エイスターモーン」。

むむ、「イースターモーン」じゃないの!?

2025年のイースター(復活祭)は、4月20日だそうですよ。イースターにちなんで、4月20日に動画を公開しました。

忙しい時期でしたが、たまたま札幌で午前中空いたので、スタジオを借りてマンドリンの練習をしました。

普段はスマホで撮るだけですが、このときはタブレットで撮影して、録音機で録った音源を編集で合わせました。そのため、ずいぶん響きが良く聞こえます。


およそ100年前のマンドリン楽譜!

使った楽譜は、こちらです。1927年(昭和2年)発行の市販楽譜です。
当時の映画は、まだサイレント(無声映画)だったんですよね。
だから映画の説明も音楽もその場で行う、いわばライブですよ!
同じ映画でも、弁士や楽士によって、使う曲も雰囲気も変わったことでしょうね。

《表紙》
シンフオニー ヴァイオリン マンドリン 楽譜
SINFONIE VIOLIN OR MANDOLIN SOLOS
現代映畫伴奏曲集 後編
映畫音樂研究會編 NO.4


裏表紙《奥付》
昭和二年七月一日印刷
昭和二年七月三日發行
定價 金五拾錢
編者 映畫音樂研究會
印刷發行者 草野 茂
東京市牛込區西五軒町三十四番地
發行所 シンフオニー樂譜出版社
電話牛込六九〇九番
振替東京六九一二七番

《楽譜》
(3)Easter Morn
  エイスターモーン
   (ZAMECNIK)     悲劇、哀傷的場面

作曲者は、この時代にサイレント映画で大活躍したジョン・ステパン・ザメクニック John Stepan Zamecnik(1872-1953)。数多くの映画伴奏曲を作曲したり編曲したりしていました。

なんかね、わたし、この時代の楽譜を弾くようになって、ザメクニックさんは自分の中で超有名人になっていますよ。いけこも歩けばザメクニックに当たる。

ところがね…意外にも、もとの楽譜が見当たりませんでした。

「イースターの朝には 白百合を生けましょう」という歌詞の聖歌もありますが、それとは違う曲でした。

SPレコードやオルゴールの演奏音源も見つかりません。


ナイジェリアで演奏!

ところがね、遠くナイジェリアで演奏されているのを発見しましたよ!!

ナイジェリアにある、アポストリック・フェイス教会オグン中央本部のYouTubeチャンネルから。いずれも、イースターコンサートのライブ配信です。

2022年、2023年、2024年のイースターコンサートで、「Easter MornーOrchestra」を演奏しています。

これらの演奏を聴いてみると、この曲は、最初と最後が活気のあるマーチ風なんですね。中間部に、わたしの弾いたメロディがあります。

2022 Easter Concert 17-04-2022. Apostolic Faith Church Ogun Region
2022年のコンサート。1時間21分24秒あたりで、「Easter Morn」の演奏が始まります。

2023 Easter Concert 09-04-2023. Apostolic Faith Church Ogun Region
2023年のコンサート。1時間19分23秒あたりから曲が始まります。

2024 EASTER CONCERT 31-03-2024. Apostolic Faith Church Ogun Central
2024年のコンサート。1時間12分57秒あたりから、曲が始まります。

その年によって、演奏者の衣装がシックだったり色とりどりだったりして、興味深いですね。会場では扇風機がまわっていて、3月や4月でも暑いのかなあ?などと想像が膨らみます。
原曲の楽譜や昔の音源はみつからなかったものの、こんなに遠くで演奏されていることに感激しました。
原曲探しに進展があったら、追加しますね!

2025/01/04

サイレント映画の伴奏曲集♪デッペンの「ヂアパニース サンセツト」

あけましておめでとうございます!
2025年のはじまりに、演奏動画をどうぞ。

「現代映畫伴奏曲集 前編」(17) A Japanese Sunset
ヂアパニース サンセツト/mandolin


使用した楽譜は、今回もこれ!
映畫音樂研究會編 NO.3
「シンフオニー ヴァイオリン マンドリン 樂譜 現代映畫伴奏曲集 前編」


《奥付》
昭和二年五月一日印刷
昭和二年五月三日發行
定價 金五拾錢
編者 映畫音樂研究會
印刷發行者 草野 茂
東京市牛込區西五軒町三十四番地
發行所 シンフオニー樂譜出版社
電話牛込六九〇九番
振替東京六九一二七番


1ページ「映畫伴奏振附解說」より
此曲は日本の日沒を表したる曲にして、現代劇、時代劇を通じて日沒の場面に用ふ、映畫によりては開幕又はラストシーン(終局)の場合に演奏するも可なり。

昭和2年(1927年)の発行物なので古い字体で書いてありますが、
「映畫」=映画、「日沒」=日没ね!
楽譜の題名は「ヂアパニース サンセツト」ですが、
目次では「ヂヤパニース サンセツト」、
解説では「ジヤパニース サンセツト」と、表記が揺れまくりです。
5月1日に印刷して2日後に発行する前に、校正をなんとかしてほしい…。

楽譜に書いてある小さい玉の音符は、主なメロディをイヤホンで聴きながら弾きました。
動画編集ソフトで切り貼りして、片隅にうまく重ねました。

作曲者はジェシー・L・デッペン

この楽譜には作曲者が書いてありませんでしたが、ちょっと検索するとピアノやオルガン、SPレコードの演奏を見つけることができたので、きっと原曲の楽譜もあるだろうなと思って、探してみました。
作曲者は、アメリカで活躍した女性の作曲家、ジェシー・L・デッペン Jessie L. Deppen(1881-1956)

楽譜はピアノ版とオーケストラ版

サム・フォックス出版会社 Sam Fox Pub. Coから、「Parlor Salon Sheet Music Collection」という楽譜のシリーズが多数発売されていて、この曲は1916年にピアノスコアとして発行されています。
アメリカ・メイン大学のサイト DigitalCommons@UMaineで、当時のピアノ・スコア(PDF)が公開されています。表紙は、夕日を背にしたあずま屋の絵。日本風…なのか?
楽譜には「Composer “Eleanor”(「エレノア」の作曲者)」と書いてあります。

国際日本文化研究センター(日文研)のサイトでは、日本について書かれた外国の文献を集めています。「1900s Music Scores」という19世紀の楽譜を集めたページで、上記のピアノ・スコアも見られます。
プッチーニの「蝶々夫人」ならわかるけれど、ゲイシャとかキモノとかジンリキシャとか、すごいタイトルの曲がせいぞろい!みんな日本がめずらしかったのね。

IMSLPでは、ザメクニックさんが編曲したオーケストラ楽譜1916年、サム・フォックス社)が見られます。ピアノ、フルート、クラリネット、コルネット×2、トロンボーン、ティンパニとチャイニーズゴング(銅鑼)など(他にトライアングルとベル)、ヴァイオリン1、ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバスのパート譜がありました。各パート譜を見ると、オーボエとホルン、バスーンのガイドが書いてありました。
「現代映畫伴奏曲集 前編」に掲載している楽譜は、補足的に書かれたフレーズが、このオーケストラ版と同じでした。

また、上記と同じアレンジと思われるザメクニックさん編曲のオケ用楽譜が、「Sam Fox Library Orchestra Folio」Volume2 1916年、サム・フォックス社)の、4曲目に掲載されています。この曲集の表紙には、「A collection of select compositions for hotel, cafe, theatre, moving picture and concert orchestras」と書いてあります。ホテル、カフェ、劇場、映画、コンサートオーケストラ向けの曲を掲載した曲集ってことね。この曲集のお値段を見ると、ピアノまたはオルガンパートは1ドル、その他の各パートは50セントだって。

演奏いろいろ

ピアノ演奏

Jessie L. Deppen: A Japanese Sunset
昔の楽譜を掘り起こして数多く弾いている、Phillip Searさんのピアノ演奏。
サム・フォックス社のピアノ・スコアを弾いています。

レコード以前の音楽再生装置、ピアノロール!

Ampico Lexington - A Japanese Sunset - Delcamp

J.ミルトン・デルキャンプ J.Milton Delcamp  (1892 - 1931)さんの重厚なピアノ演奏。レコードが普及する前は、ピアノロールが音楽再生装置だったそうです。


フォックストロットにアレンジしたピアノロール!

JAPANESE SUNSET foxtrot 1923 (Deppen arr. Zamecnik) played by M Purvey 
ECHO DANCE ROLL D1455V
わたしにとってはおなじみのジョン・ステパン・ザメクニック J.S.Zamecnikさんが、この曲を、なんと当時流行のダンスミュージック、フォックストロットにしちゃいました!
1923年、M.Purveyさんのピアノ演奏を、ピアノロールにしたものです。

SPレコードみつけた!

"Japanese Sunset" and "Rosita" by Paul Ash and His Granada Orchestra, 1923
こちらもザメクニックさんアレンジのフォックストロット。
ポール・アッシュとグラナダ・オーケストラが演奏した、レコードです。
ラベルに「For Dancing(ダンス用)」って書いてある!
動画の後半はレコードの裏面で、「ロジータ」という曲です。

Japanese Sunset - Paul Ash & his Granada Orchestra Brunswick Records #2517 1923
上と同じレコードですね。A面だけ再生しています。

Savoy Havana Band - A Japanese Sunset (Columbia3296) (1923)
これも曲調がフォックス・トロットですね。サヴォイ・ハバナ・バンドの演奏、1923年。
レコードのラベルに「ロンドンのサヴォイ・ホテルにて」と書いてあります。

Jack Shilkret's Victor Salon Orchestra A Japanese Sunset 1924 
(Victor 19481-A)
ナサニエル・シルクレット Nathaniel Shilkretさん編曲の、ビクター・サロン・オーケストラによる演奏。1924年。
ザメクニックさんのオーケストラ楽譜に最も近い演奏ですが、15~18小節の4小節がカットされています。

A Japanese Sunset - Seiberling Singers - 1928
SEIBERLING SINGERSの演奏、1928年のレコードです。なんと男声四重唱!


ほかに、イギリスで活躍した劇場オルガン奏者、サンディ・マクファーソン 
Sandy MacPherson(1897-1975)の演奏もあります→YouTube「A Japanese Sunset


Discogs」というサイトでは、彼女の作曲した曲のレコード等をまとめて紹介していました。「エレノア」は、「現代映畫伴奏曲集 前編」にも「エレアノル」という題で載っているので、こんどマンドリンで弾いたときに、音源を探しやすいかも!

日本の情景→アメリカ→日本へ

もともとは、アメリカの作曲家が日本の情景を描いた曲。
ピアノでもオーケストラでも演奏され人気が出たので、さらにゴキゲンなダンスミュージックにアレンジされちゃいました!
この曲が日本にも伝わり、その壮大な曲調から映画音楽の伴奏にも合うと考えたのでしょうね。ザメクニックさん編曲のオーケストラ版をもとにして、そのメロディを映画伴奏の曲集に掲載したんですね。
そんなストーリーが見えてきました。
  

YouTube「ikekomandolin」のチャンネルでは、「大正~昭和初期のマンドリン楽譜を弾いてみた」という再生リストがあります。
古書店などで100年近く前の市販楽譜を手に入れて、弾いています。
お時間ありましたら、ごらんくださいね!

2024/12/07

サイレント映画の伴奏曲集♪「ラヴスオールドスエートソング」は19世紀のヒットソング!

※2024.12.27 オルゴールやSPレコードの動画を追加しました

サイレント映画の伴奏曲集を弾きつつ、当時の映画につけられた音楽や100年前にはやった音楽について調べています。

今回はこの曲!

「現代映畫伴奏曲集 後編」(4)
Love's Old Sweet Song ラヴスオールドスエートソング/mandolin

使った楽譜はこちら

《表紙》
シンフオニー ヴァイオリン マンドリン 楽譜
SINFONIE VIOLIN OR MANDOLIN SOLOS
現代映畫伴奏曲集 後編
映畫音樂研究會編 NO.4


裏表紙《奥付》
昭和二年七月一日印刷
昭和二年七月三日發行
定價 金五拾錢
編者 映畫音樂研究會
印刷發行者 草野 茂
東京市牛込區西五軒町三十四番地
發行所 シンフオニー樂譜出版社
電話牛込六九〇九番
振替東京六九一二七番

《楽譜》
(4)Love's Old Sweet Song
  ラヴスオールドスエートソング
     Serenade
     (MOLLOY)     物寂しき哀傷場面


マンドリンでも弾きやすい、#1つのト長調です。
それにしても、「スエート」って何さ!スウィートじゃないんだー。
MOLLOY(モロイ)って作曲者の名前かな?と思って、調べてみました↓

楽譜で流布する19世紀のヒットソング!“パーラー・ソング”

「Love's Old Sweet Song」は、1884年に作られた歌。
歌詞はグラハム・クリフトン・ビンガム Graham Clifton Bingham(1859‐1913)。
作曲は、アイルランドの作曲家ジェームズ・ライナム・モロイ James Lynam Molloy(1837-1909)。
1884年に初めて歌ったのは、コントラルト(女声の最低音域)の歌手、アントワネット・スターリング Antoinette Sterlingさん(1841-1904)。ロンドンでのコンサートだって。

ジョンズ・ホプキンス大学 Johns Hopkins Universityのサイトで、楽譜が見られます。
T.B. Harms & Co発行、ヘ長調、♭1つ
M.D. Swisher発行、変ホ長調、♭3つ

IMSLP(国際楽譜ライブラリープロジェクト「ペトルッチ」)では、以下の4種類の楽譜が見られます。
・高音用(Delux Music Co発行、変イ長調、♭4つ)二人の女性のうち一人がマンドリンを弾いている、優美な表紙!
・中音用(M.D. Swisher発行、変ホ長調)上記のSwisher版とは表紙が違う
・低音用(Boosey & Co.発行、ヘ長調)
・低音用(D.H. Baldwin & Co.発行、ヘ長調)
ずいぶんいろいろ楽譜がありますねえ。

Wikipediaでは、「Love's Old Sweet Song」を「ビクトリア朝のパーラー・ソング」と説明しています。
パーラー・ソング」は、家庭の応接間で演奏されたポピュラー音楽なんだって。
シートミュージック」という楽譜で19世紀に普及したそうです。
1曲1枚だから好きな曲を安く買えて、家にある楽器を弾いて、歌って…楽しそうですねえ。
その後、ラジオやレコードが普及すると、楽譜を買って歌う文化は衰退しちゃったんですって。
ああそういえば、今回使った曲集はともかく、今わたしが古書店で買っている「ヴァイオリン・マンドリン楽譜」も、1曲1枚のものが多いなあ。日本における洋楽の普及にはやや時間がかかっているので、時代はやや遅れますが、これも日本のシートミュージックと言えるんじゃないかしら。

オルゴールは音楽再生装置だった!

Love’s Old Sweet Song. Stella Grand 17 1⁄4 " Nr-262
まあ素敵!ディスク型のオルゴール(ミュージック・ボックス)です。
自動ピアノやオルゴールについては、かつて東京にあった「オルゴールの小さな博物館」(2013年に閉館)が残しているサイトにくわしく載っていました。
動画のディスクには製造年が書かれていないのですが、「Stella」ステラは
スイスのメルモド・フレール社が1896年に発売した、突起のないディスクだそうです。
「17 1/4」は17.25インチ、約44センチメートルだって。

Love's Old Sweet Song. James Lynam Molloy. Mira 18 1/2" .Nr-262
「Mira」「18 1/2」から調べてみたら、上記「ステラ」と同じ
スイスのメルモド・フレール社が、「Mira」ミラという製品を製造していました。
1902年に発売されたミラのディスク7種類の中には、
18.5インチ(約47cm)のディスクもあったそうです。大きいですね!
このディスクは、ステラ版と同じ曲構成ですが、ゴージャスなアレンジです。

40年後に映画の曲に!

1923年に「Love's Old Sweet Song」という題名で20分の短編映画が作られ、この歌がつかわれました。
映画はまだサイレントの時代でしたが、Wikipediaによると、1923年に、サウンド・オン・フィルム方式(フィルム上に音声を収録する部分がある)で作られた短編の発声映画が、ニューヨークで上映されたんだって。じゃあこの映画も、発声映画のさきがけだったのね!
この歌はパーラー・ソングとして大ヒットしたので、若者はもちろん、この歌をよく知っているお父さん・お母さん世代やおじいちゃん・おばあちゃん世代にもウケる映画を作ったのでしょうね(そのような文章が、当時のチラシに書いてありました)。
長編のトーキー(映像と音声が同期した映画)は、1927年の「ジャズ・シンガー」が最初。
それより4年前に、もう音声つきの映画ができていたなんて、すごいなU.S.A!

SPレコードの演奏も多い!

ELIZABETH DEWS - Love's old sweet song (HMV B327) (recorded 1906)
女声の音域で「コントラルト」ってあるのね!知りませんでした。1906年の録音。
Madame DEWS と呼ばれるこの人のこの歌のレコード、レーベルの色が違いますが、セカイモンで売られていました。出品者はフランスの方のようです。


(1911) Venetian Instrumental Trio Plays J. L. MALLOY's "Love's Old Sweet Song"
ヴェネチアン・インストゥルメンタル・トリオ、1911年の録音。
フルートとヴァイオリンとハープの演奏です。

Loves Old Sweet Song - Neapolitan Trio Victor Records #35196 1911
ナポリタン・トリオ、1911年の録音。上と同じフルートとヴァイオリンとハープという編成ですが、アレンジが少し違う気がします。

Chester Gaylord - Loves Old Sweet Song 
(High Quality - Reduced Noise) 2021 Remaster
Wikipediaによると、1920年のレコードだそうです。
サキソフォンの演奏は、チェスター・ゲイロード。

Amelita Galli-Curci - "Love's Old Sweet Song" (Molloy)
アメリータ・ガリ=クルチ(コロラトゥーラ・ソプラノ、1882‐1963)の歌声。
1923年の録音です。


British Contralto Clara Butt ~ Love's Old Sweet Song (1923)
クララ・バット(1872-1936)のコントラルト、1923年の録音。

↓さらに見つけたので、追加したよ!

Max Dolin Love's Old Sweet Song 1925 (Victor 19592-A)
SPレコードを聴いていくと「マックス・ドリン・オーケストラ」という名前に行き当たりますが、このレコードはマックス・ドリン(1888-1976)のヴァイオリンにピアノ伴奏という、シンプルな編成。1925年。ロマンチックな演奏です。

John McCormack - Love's Old Sweet Song (Just a Song at Twilight) (1927)
ジョン・マコーマック(テノール歌手、1884‐1945)、1927年の録音。


Love's Old Sweet Song (Just a Song at Twilight) J. L. Molloy
Patricia Hammondさんのメゾ・ソプラノがすてき!
この方は、さまざまな歌の動画を継続して公開しています。

日本語の歌もあるよ!

やさしき愛の歌 ♪はるけき古の日 宵闇迫りし時 堀内敬三訳詞・モロイ作曲 Love's Old Sweet Song
なんと、堀内敬三の訳詞があったんですね!

なつかしき愛の歌
1952年(昭和27年)、藤山一郎が歌っています。
「歌声はかえりくる 霧ふる街角にも」で始まる、野上彰の作詞。

うたごえ喫茶『なつかしき愛の歌 』歌声喫茶。Lover'sOldSweetSong。
 作詞G. Clifton Bingham 作曲:James Lynam Molloy 【作詞】近藤玲二
「黄昏のともしびは いとしくもほのぼのと」で始まる、近藤玲二の作詞。
日本ではこの歌詞で歌われることが多いようで、鮫島有美子さんや錦織健さんなど、動画でもいくつか見られました。



"Just a song at twilight"のメロディが、ロマンチックでよいですね。
後半の盛り上がるところ、“たとえ心疲れて悲しく長い一日でも、黄昏時になるとあの懐かしい愛の歌が聞こえてくる”…という(アバウトな訳ですみません)ところは、人生の黄昏時とも読み取れます。
わたしは一度、この曲を弾いて動画を取ったのですが、歌であるとわかってから、歌詞を調べ、歌の雰囲気がもっと出るようにこころがけて弾き直しました。

19世紀のヒットソングは、オルゴールになり、レコードに吹き込まれ20世紀初頭もロングセラー、音声付き映画のさきがけとして使われ、日本に伝わって今でも愛唱されている…。
今回は、古い楽譜の一曲から、歌の歴史をたどる旅となりました。