※2024.12.27 オルゴールやSPレコードの動画を追加しました
サイレント映画の伴奏曲集を弾きつつ、当時の映画につけられた音楽や100年前にはやった音楽について調べています。
今回はこの曲!
「現代映畫伴奏曲集 後編」(4)
Love's Old Sweet Song ラヴスオールドスエートソング/mandolin
Love's Old Sweet Song ラヴスオールドスエートソング/mandolin
使った楽譜はこちら
《表紙》
シンフオニー ヴァイオリン マンドリン 楽譜
SINFONIE VIOLIN OR MANDOLIN SOLOS
現代映畫伴奏曲集 後編
映畫音樂研究會編 NO.4
シンフオニー ヴァイオリン マンドリン 楽譜
SINFONIE VIOLIN OR MANDOLIN SOLOS
現代映畫伴奏曲集 後編
映畫音樂研究會編 NO.4
裏表紙《奥付》
昭和二年七月一日印刷
昭和二年七月三日發行
定價 金五拾錢
編者 映畫音樂研究會
印刷發行者 草野 茂
東京市牛込區西五軒町三十四番地
發行所 シンフオニー樂譜出版社
電話牛込六九〇九番
振替東京六九一二七番
《楽譜》
(4)Love's Old Sweet Song
ラヴスオールドスエートソング
Serenade
(MOLLOY) 物寂しき哀傷場面
マンドリンでも弾きやすい、#1つのト長調です。
それにしても、「スエート」って何さ!スウィートじゃないんだー。
MOLLOY(モロイ)って作曲者の名前かな?と思って、調べてみました↓
楽譜で流布する19世紀のヒットソング!“パーラー・ソング”
「Love's Old Sweet Song」は、1884年に作られた歌。
歌詞はグラハム・クリフトン・ビンガム Graham Clifton Bingham(1859‐1913)。
作曲は、アイルランドの作曲家ジェームズ・ライナム・モロイ James Lynam Molloy(1837-1909)。
1884年に初めて歌ったのは、コントラルト(女声の最低音域)の歌手、アントワネット・スターリング Antoinette Sterlingさん(1841-1904)。ロンドンでのコンサートだって。
ジョンズ・ホプキンス大学 Johns Hopkins Universityのサイトで、楽譜が見られます。
→T.B. Harms & Co発行、ヘ長調、♭1つ
→M.D. Swisher発行、変ホ長調、♭3つIMSLP(国際楽譜ライブラリープロジェクト「ペトルッチ」)では、以下の4種類の楽譜が見られます。
・高音用(Delux Music Co発行、変イ長調、♭4つ)二人の女性のうち一人がマンドリンを弾いている、優美な表紙!
・中音用(M.D. Swisher発行、変ホ長調)上記のSwisher版とは表紙が違う
・低音用(Boosey & Co.発行、ヘ長調)
・低音用(D.H. Baldwin & Co.発行、ヘ長調)
ずいぶんいろいろ楽譜がありますねえ。
Wikipediaでは、「Love's Old Sweet Song」を「ビクトリア朝のパーラー・ソング」と説明しています。
「パーラー・ソング」は、家庭の応接間で演奏されたポピュラー音楽なんだって。
「シートミュージック」という楽譜で19世紀に普及したそうです。
1曲1枚だから好きな曲を安く買えて、家にある楽器を弾いて、歌って…楽しそうですねえ。
その後、ラジオやレコードが普及すると、楽譜を買って歌う文化は衰退しちゃったんですって。
ああそういえば、今回使った曲集はともかく、今わたしが古書店で買っている「ヴァイオリン・マンドリン楽譜」も、1曲1枚のものが多いなあ。日本における洋楽の普及にはやや時間がかかっているので、時代はやや遅れますが、これも日本のシートミュージックと言えるんじゃないかしら。
オルゴールは音楽再生装置だった!
Love’s Old Sweet Song. Stella Grand 17 1⁄4 " Nr-262まあ素敵!ディスク型のオルゴール(ミュージック・ボックス)です。自動ピアノやオルゴールについては、かつて東京にあった「オルゴールの小さな博物館」(2013年に閉館)が残しているサイトにくわしく載っていました。動画のディスクには製造年が書かれていないのですが、「Stella」ステラはスイスのメルモド・フレール社が1896年に発売した、突起のないディスクだそうです。「17 1/4」は17.25インチ、約44センチメートルだって。
Love's Old Sweet Song. James Lynam Molloy. Mira 18 1/2" .Nr-262「Mira」「18 1/2」から調べてみたら、上記「ステラ」と同じスイスのメルモド・フレール社が、「Mira」ミラという製品を製造していました。1902年に発売されたミラのディスク7種類の中には、18.5インチ(約47cm)のディスクもあったそうです。大きいですね!このディスクは、ステラ版と同じ曲構成ですが、ゴージャスなアレンジです。
40年後に映画の曲に!
1923年に「Love's Old Sweet Song」という題名で20分の短編映画が作られ、この歌がつかわれました。
映画はまだサイレントの時代でしたが、Wikipediaによると、1923年に、サウンド・オン・フィルム方式(フィルム上に音声を収録する部分がある)で作られた短編の発声映画が、ニューヨークで上映されたんだって。じゃあこの映画も、発声映画のさきがけだったのね!
この歌はパーラー・ソングとして大ヒットしたので、若者はもちろん、この歌をよく知っているお父さん・お母さん世代やおじいちゃん・おばあちゃん世代にもウケる映画を作ったのでしょうね(そのような文章が、当時のチラシに書いてありました)。
長編のトーキー(映像と音声が同期した映画)は、1927年の「ジャズ・シンガー」が最初。
それより4年前に、もう音声つきの映画ができていたなんて、すごいなU.S.A!
SPレコードの演奏も多い!
ELIZABETH DEWS - Love's old sweet song (HMV B327) (recorded 1906)
女声の音域で「コントラルト」ってあるのね!知りませんでした。1906年の録音。
女声の音域で「コントラルト」ってあるのね!知りませんでした。1906年の録音。
Madame DEWS と呼ばれるこの人のこの歌のレコード、レーベルの色が違いますが、セカイモンで売られていました。出品者はフランスの方のようです。
(1911) Venetian Instrumental Trio Plays J. L. MALLOY's "Love's Old Sweet Song"
ヴェネチアン・インストゥルメンタル・トリオ、1911年の録音。
フルートとヴァイオリンとハープの演奏です。
Loves Old Sweet Song - Neapolitan Trio Victor Records #35196 1911
ナポリタン・トリオ、1911年の録音。上と同じフルートとヴァイオリンとハープという編成ですが、アレンジが少し違う気がします。
Chester Gaylord - Loves Old Sweet Song
(High Quality - Reduced Noise) 2021 Remaster
Wikipediaによると、1920年のレコードだそうです。
サキソフォンの演奏は、チェスター・ゲイロード。
Amelita Galli-Curci - "Love's Old Sweet Song" (Molloy)
アメリータ・ガリ=クルチ(コロラトゥーラ・ソプラノ、1882‐1963)の歌声。
1923年の録音です。
アメリータ・ガリ=クルチ(コロラトゥーラ・ソプラノ、1882‐1963)の歌声。
1923年の録音です。
British Contralto Clara Butt ~ Love's Old Sweet Song (1923)
クララ・バット(1872-1936)のコントラルト、1923年の録音。
クララ・バット(1872-1936)のコントラルト、1923年の録音。
↓さらに見つけたので、追加したよ!
Max Dolin Love's Old Sweet Song 1925 (Victor 19592-A)
SPレコードを聴いていくと「マックス・ドリン・オーケストラ」という名前に行き当たりますが、このレコードはマックス・ドリン(1888-1976)のヴァイオリンにピアノ伴奏という、シンプルな編成。1925年。ロマンチックな演奏です。
John McCormack - Love's Old Sweet Song (Just a Song at Twilight) (1927)
ジョン・マコーマック(テノール歌手、1884‐1945)、1927年の録音。
ジョン・マコーマック(テノール歌手、1884‐1945)、1927年の録音。
Love's Old Sweet Song (Just a Song at Twilight) J. L. Molloy
Patricia Hammondさんのメゾ・ソプラノがすてき!
この方は、さまざまな歌の動画を継続して公開しています。
日本語の歌もあるよ!
やさしき愛の歌 ♪はるけき古の日 宵闇迫りし時 堀内敬三訳詞・モロイ作曲 Love's Old Sweet Song
なんと、堀内敬三の訳詞があったんですね!
なつかしき愛の歌
1952年(昭和27年)、藤山一郎が歌っています。
「歌声はかえりくる 霧ふる街角にも」で始まる、野上彰の作詞。
うたごえ喫茶『なつかしき愛の歌 』歌声喫茶。Lover'sOldSweetSong。
作詞G. Clifton Bingham 作曲:James Lynam Molloy 【作詞】近藤玲二
「黄昏のともしびは いとしくもほのぼのと」で始まる、近藤玲二の作詞。
日本ではこの歌詞で歌われることが多いようで、鮫島有美子さんや錦織健さんなど、動画でもいくつか見られました。
"Just a song at twilight"のメロディが、ロマンチックでよいですね。
後半の盛り上がるところ、“たとえ心疲れて悲しく長い一日でも、黄昏時になるとあの懐かしい愛の歌が聞こえてくる”…という(アバウトな訳ですみません)ところは、人生の黄昏時とも読み取れます。
わたしは一度、この曲を弾いて動画を取ったのですが、歌であるとわかってから、歌詞を調べ、歌の雰囲気がもっと出るようにこころがけて弾き直しました。
19世紀のヒットソングは、オルゴールになり、レコードに吹き込まれ20世紀初頭もロングセラー、音声付き映画のさきがけとして使われ、日本に伝わって今でも愛唱されている…。
今回は、古い楽譜の一曲から、歌の歴史をたどる旅となりました。
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