昭和初期に販売されていたマンドリン用の楽譜をゲット!
同じ時代に作られたマンドリンで弾きながら、当時はやっていた音楽を味わっています。
今回弾いたのは、「太湖船」(たいこせん)。
「現代映畫伴奏曲集 前編」(8)太湖船/mandolin
使用した楽譜は…
映畫音樂研究會編 NO.3
「シンフオニー ヴァイオリン マンドリン 樂譜 現代映畫伴奏曲集 前編」
《奥付》
昭和二年五月一日印刷
昭和二年五月三日發行
定價 金五拾錢
編者 映畫音樂研究會
印刷發行者 草野 茂
東京市牛込區西五軒町三十四番地
發行所 シンフオニー樂譜出版社
電話牛込六九〇九番
振替東京六九一二七番
この曲集の1ページ「映畫伴奏振附解說」では
(7)沙窓 支那劇或は日本映畫中の支那街等の場面に用ひらる。
と並んで
(8)太湖船 同上場面又は室内等ののんびりしたる場面に用ふ。
と書いてあります。
「沙窓」は、前に弾いてみました
楽譜には、「(8)Chinese 太湖船」と題名はあるものの、作曲者は書かれていません。
中国の民歌
中国の「民歌」 ~長崎清楽として伝わらなかったもの として、この「太湖船」が紹介されています。この曲は明清楽ではなく、中国の民歌(民謡)なんだそうです。歌詞も載っているので、ごらんください。
「太湖」は、中国に実在する湖の名前なんだって。
美しい湖の風景が想像できる、ゆったりとしたメロディです。
楽譜さがし
①流行した当時の出版楽譜
わたしがたびたびお世話になっているインターネット古書通販サイト「日本の古本屋」では、古い楽譜が売られています。
・楽譜 支那名曲 「太湖船・黄河の漣」ヴァイオリン マンドリン獨奏曲(大正12年、アサミ楽器店)
・楽譜)太湖船 支那楽第五編 (大正13年、大阪音楽協会)
・楽譜【太湖船・沙窓/模範ハーモニカ楽譜】(大正15年、模範楽譜出版社)
・楽譜つき絵葉書 (5枚のうち1枚が「太湖船」)←これは時期不明
②宮沢賢治も弾いたとか
「みちのくの山野草」というフログで、『宮沢賢治の世界展 生誕百年記念』(朝日新聞社、1995年)という本を紹介していました。(「日本の古本屋」でも手に入ります)
なんと、その本には宮沢賢治の自筆ガリ版刷り楽譜が載っていて、賢治がチェロを弾くために書いたとのこと!
宮沢賢治がチェロを習ったのが大正15年というから、上記の販売楽譜とも時期が合いますね。そのくらいよく知られた歌で、簡単に弾ける曲なのでしょう。
③現代の楽譜あります
現代でも、楽譜が販売されています。オンラインショップでも入手できるのですね!
ハーモニカ、小学生向け器楽合奏、二胡の楽譜がありますね~。
二胡は中国の伝統的な弦楽器で、この曲はとてもよく合います。
・全音オンラインショップ…新版 標準ハーモニカ教本 2 中級・上級編【改訂版】佐藤秀廊:著
・ぷりんと楽譜…太湖船 中国民謡 久行 敏彦編曲(器楽合奏)
・楽譜@ELISE…太湖船 中国民謡、久行 敏彦 編曲 器楽合奏譜 東京書籍株式会社 楽譜集「小学生のためのアンサンブル曲集~トップ・オブ・ザ・ワールド」より
・Piascore楽譜ストア…太湖船 TAI HU CHUAN (玉 蘭) / 二胡 中級
・ヤマハの楽譜出版…日本二胡学会認定曲集(二胡検定試験課題曲収録) 二胡を極めよう 第1集 入門
レコードききくらべ!
SPレコードを再生している動画って、けっこうたくさんありますね。
この曲について調べてみると…
曲のイメージとは異なり、なんだかずいぶん勇ましいマーチになっているものが多いです。
【太湖船】 帝国海軍軍楽隊 1909年録音
ニッポノホンレコード、1242。
概要欄に「録音 1909(明治42)年秋」と書いてあります。おお、じつはけっこう古いのね。
清曲 太湖船 ― 帝國海軍々樂隊󠄁(1909年)[Nipponophone 1242]
上と同じ、ニッポノホンレコード 1242です。
太湖船 taikosen 帝國海軍軍楽隊
帝國海軍軍楽隊 ニッポノホンレコード 1242
上2つと同じ、1242ですね。
「78MUSIC」のニッポノホンレコードの目録を見ると、1242の発売年は書かれていないものの、前後のレコード番号から、1918年から1925年の間に発売されたと推測できます。
「京都市立芸術大学 日本伝統音楽研究センター」というサイトによると、
(株)日本蓄音器商会が5種類のレーベルをワシ印の「ニッポノホンレコード」というレーベルに切り替えたのは、大正4(1915)年だそうです。
実は、一番上の動画の概要欄には、「初版は獅子印ローヤル。」と書かれています。
この1242は、1909年に録音して発売された獅子印ローヤルのものを、ワシ印ニッポノホンのレーベルで再発したものでしょうね。
【清楽演奏】 04 太湖船 【SP盤】
東亜音楽部の演奏。片面2曲ずつ入っているレコードで、
この裏面は以前紹介した「沙窓」が入っています。
鳩印のトーアレコード(TOA-RECORD) は、東亜蓄音機株式会社より1920年~1923年に発売されていたそうです。
太湖船 武蔵野管弦楽団 支那楽
東京レコード 3177A 東京蓄音機株式会社製
ピアノも入っているのかな?
西洋の楽器を使っていますが、こちらはゆったりした演奏です。
「京都市立芸術大学 日本伝統音楽研究センター」というサイトによると、
東京蓄音機株式会社は大正12(1923)年に(株)日本蓄音器商会に買収されたそうなので、1923年までに出たレコードでしょうね。
大湖船 戸山学校軍楽隊
ニッポノホンレコード 15738-A 春日学長指揮
「78MUSIC」というサイトで調べると、1925年7月のレコードですって。
前半と後半は太湖船どこ行った!?という感じの、吹奏楽で威勢のよいマーチ!
中盤に太湖船のメロディが出てきます。
この楽曲は、フランツ・エッケルト作曲「太湖船行進曲」でした。
フランツ・エッケルト(1852ー1916)はプロイセンの軍楽家で、1879~1899年に日本で洋楽教育に携わり、作曲・編曲をしたのだそうです。
燕印のニットーレコード2140、「太湖船」と「沙窓」が続けて入っています。
「ベル獨奏 田中耕二」だそうです。
「78MUSIC」の目録を見ると、近い番号のニットー赤盤から、1926年あたりに出たものと推測できます。
※このブログ内では再生できないので、クリックしてYouTubeでごらんください
支那音曲玉手箱 金蓮江・太湖船 第3 西條管弦楽団
ポリドールレコード472-A
片面に2曲入っており、1分30秒から「太湖船」が始まります。
「金蓮江」はゆったりした曲ですが、1分30秒から始まる「太湖船」はマーチ。
ズンタ、ズンタ、ズンタッタッタ、ズンタ、ズンタ、ズン、ゴーン♪
「78MUSIC」というサイトにポリドールレコードの番号472は載っていませんが、470と474は1930年の発売なので、これも1930年ではないかと考えられます。
太湖船 大日本帝国海軍々楽隊 吹奏楽
パーロホン レコード E 1331-A (96768)
あれ、レーベルは違うけれど、ニッポノホンレコードと同じ演奏じゃないの?
でもよ~く聞くと、ニッポノホン版は、イントロが
「バァン・ドン、バァン・ドン、ドンドンドンドンドン♪」ですが、
こちらは「バァン・ドン、バァン・ドン、バンバンバンバンバン♪」だから、
同じ海軍軍楽隊でも演奏時期は異なるのでしょうね。
ハーモニカ 太湖船 豊田義一
ヒノマルレコード、年代不明。
「ザリガニ」さんの「何処を開けても骨董だらけのホームページ」にある「SPレコード・レーベル図鑑」によると、ヒノマルレコードは、ショーチク(昭蓄)レコードスタヂオが出していたレーベルの一つだそうです。ショーチクレコードスタヂオは昭和6年~昭和15年頃まであったそうなので、このレコードも1931~1940年の間に発売されたと考えられます。
サントリー ウーロン茶CMソング 太湖船( 歌詞付き) フルver.
1995年のCMソング。これはわたしもリアルタイムで聴きましたよ。
わたしが小さいころは、中国の歌というと女性が高い声で歌うイメージがあったけれど、
このCM曲では素朴に可愛く歌うのが意外で、新鮮に感じられました。
※このブログ内では再生できないので、クリックしてYouTubeでごらんください
二胡演奏---太湖船 20170811
二胡の先生が演奏している動画のようです。
二胡、いいですね~。
日本で根強い人気の、中国の歌
なるほど、この曲は中国の民歌で、日本ではSPレコードでいろんなバージョンで録音、発売され、再発売もされていたのね。SPレコードだけでも明治から大正、昭和と時期が幅広いので、「ティティナ」のような一時的な爆発的流行ではなく、根強い人気の曲ということなのでしょう。
日本人にとって、この曲は中国のイメージを呼び起こす代表的な曲だったからこそ、当時の映画伴奏曲集にも収録されたのでしょうね。少なくとも、アメリカで発行されている、ザメクニックさん編集の映画音楽曲集には無い楽曲です。
エッケルトさんは、日本でよく知られているこの曲でマーチを作って、日本の洋楽教育に活かしたのでしょうね。
しかも30年前に日本でCM曲としてリバイバル、今でも二胡や器楽の楽譜があり、日本でも中国でも演奏されています。
今回は、SPレコードの発売年がレーベルに明記されていなかったことから、レコードレーベルの歴史にまで足を突っ込んでしまいました。
一つのレコード会社で複数のレーベルを作っていたり、たくさんあったレコード会社が買収され淘汰された歴史があったようで、奥が深すぎました…。
なまらマニアックな世界です。
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