2025/06/30

【2020年】昭和3年の楽譜を弾いてみた♪大流行曲「ティティナ」(大正~昭和初期のマンドリン楽譜出版)

【過去記事】2020年10月に、引っ越し前のブログにて書いた記事に、【レコードききくらべ!】をつけ加えたものです。

2025.5.7  ききくらべ動画を一つ追加しました。

2025.6.30 ききくらべ動画をもう一つ追加しました。

大正~昭和初期のマンドリン楽譜を弾くきっかけとなった曲です。


2020.9.26に開催された、Facebookのマンドリンイベント「まんどりんかふぇvol.7(オンライン)」のために撮った演奏動画を紹介します!

「ティティナ」 レオ・ダニデレフ 作曲 
Titina(Leo Daniderff)
arr. by K.Yoshida


Rolandの「4XCAMERA」というアプリを使って、ダブルいけこでお送りします。

これね…、今、わたしの中で大ブームの曲なんですよ!


↑これこれ!ちょっと、いやかなり、古そうな楽譜でしょう?
「日本の古本屋」というサイトを通して、名古屋の伊東古本店さんより購入しました。
昭和3年(1928年)出版の、シンフォニー楽譜出版社から出た、ヴァイオリン・マンドリン二重奏の楽譜なんですよ。
わたしの使っているエンベルガーマンドリンは1927年制作だから、この楽器で弾くのにぴったりでしょ!

↓楽譜には、「大流行曲 ティティナ」と書いてあります。

なぜこの曲を演奏したのか?
話せば、やや長いかも…。

100年前のダンスミュージック

もとはといえば、マンドリンのために作られた、アメデオ・アマデイの「Dody(ドディ)」という曲を練習していたのですが、その楽譜に「Foxtrot」と書いてあったのですよ。
フォックストロットって、何?どんな感じで弾けばいいの?
そんな疑問から始まりました。

そういえば、フォックストロットって、社交ダンスでそういう種目がありますよね。
でも、社交ダンスや競技ダンスの動画を観てみると、ゆったりした曲で踊っていて、「ドディ」の曲とは何か違う雰囲気です。
実は、現在社交ダンスや競技ダンスで「フォックストロット」と呼ばれているのは、1929年ごろに始まったという、イギリス式の「スロー・フォックストロット」なんですって。

アップテンポな曲の方は、1910年代に流行った、アメリカンスタイルのダンスミュージックなんだそうです。
ペアで、手を取り合って踊るダンスです。
  
Wikipediaより
「1913年 ハリー・フォックス(Harry Fox) が、自らがマネージャーを務めていたダンスホールに於いて、自らの名を冠したダンスを発表する。」
「当時のフォックストロットは、今日のクイックステップやジルバに近い、スピーディーでアクションの激しいダンスだった。」

あっ、キツネは関係ないんだ!へえ~。
Wikipediaによると、フォックストロットが生まれる前に「ワンステップ」というダンスもあったそうです。
アマデイの曲に、One-Step「Cupido」(クピド、あるいはキューピッドというのかな?)という曲もあります。
(日本マンドリン連盟北海道支部会報No.206の添付楽譜にありました)
アメデオ・アマデイさんは、1866~1935年に生きていた人。
ということは、マンドリン界で超有名なアマデイさんも、当時流行したダンスミュージックを作ったということなのね!

1927年の映画「ジャズ・シンガー」より。
「世界初」のトーキーと言われる、部分的に同期音声を使っている映画です。
当時の雰囲気が、伝わってきます。

大流行曲「ティティナ」

フォックストロットの楽曲をYouTubeで検索したところ、古いレコードを見せながらターンテーブルで再生する動画にヒットしました。
こういう動画って、けっこうあるんですね。日本の方も、海外の方も、こういう方法でレコードコレクションを見せています。
「Foxtrot」で検索すると、多く出たのが「ティティナ」でした。やはり「大流行曲」なのでしょう。
1925年ごろに、数多くの楽団が、レコードを作っているようです。
楽団によって速さやアレンジがけっこうちがうのも、興味深いです。終わり方のコードがメジャーかマイナーか、とか…。

【SPレコードききくらべ!】

Titina, Fox Trot- International Novelty Orchestra 1925
インターナショナル・ノベルティ・オーケストラの演奏、1925年のレコード。
概要欄を見ると、ボーカルはアーサー・ホール Arthur Hall だそうです。

「ティティナ "Titina"」
上と同じ、インターナショナル・ノベルティ・オーケストラの演奏(1925年)。
説明欄は日本語で、この方の持っているレコードについて、詳細に語られています。

Titina - Fox Trot, by Billy Wynne's Greenwich Village Inn Dance Orchestra
ビリー・ウィン グリニッジ・ヴィレッジ・イン ダンス・オーケストラの演奏、1925年のレコード。

Titina, Fox Trot- Carl Fenton´s Orchestra 1925 (Je Cherche Apres Titine)
カール・フェントン オーケストラの演奏、1925年のレコード。

 
Titina. Ben Bernie and His Hotel Roosevelt Orchestra
ベン・バーニーとホテル・ルーズベルト・オーケストラの演奏、1925年。
2つの動画でレコード盤の色が違いますが、聴いてみると同じ演奏のようです。

(1925) Ben Bernie - Titina (song from Modern Times sung by Charles chaplin).
おおっ、こちらはベン・バーニーの演奏の様子ですよ。ドラムが入ってテンポ速い!

THE KNICKER BOCKERS TITINA
ザ・ニッカボッカーズの演奏。
といっても、1964年結成のロックバンドではないですよね!
このレコード、日本語で「ティティナ」「フォックス トロット」と書いてありますね。ボーカルが入っていますが、だれでしょう?

"Titina" (from Puzzles of 1925), The Promenaders
ザ・プロムネイダーズの演奏、ボーカルはビリー・ジョーンズ Billy Jones
途中で「ヴォルガの舟歌(エイコーラ~♪)」とか「アンダンテ・カンタービレ」の一節が入るのがおもしろい!

Billy Murray - Titina, 1925
ビリー・マレーの歌、1925年。


【追加!】
Titina [Fox Trot] Maffia-Laurenz (1925)
なんと、Pedro Maffiaさんと Pedro Laurenzさんによる、バンドネオン二重奏です。
イントロはインターナショナル・ノベルティ・オーケストラのアレンジに似ていますね。
Seesaaブログ版「えぶたんのほっぺ」を読んでくださった方から、教えていただきました。ありがとうございます!

Léonce - Je cherche après Titine (Léo Daniderff)
フランス語で、「ティティナを探して」という題のようです。
ジャケットには、「Le Grand Succes de Léonce au Moulin Rouge」
(ムーラン・ルージュでのレオンスの大成功)とあります。歌手の名前はレオンスさん?

コスモポリタン・ノベルテー・オーケストラ - ティティナー
出た!ニッポノホンレコードから出た日本版「ティティナー」
「唄 少女合唱」による日本語の歌詞と、曲への乗せ方が、ものすごい(笑)。
でも、手持ちの楽譜に一番近いアレンジは、これかもしれません。
それにしても、チューバでしょうか?少女合唱が入ってからベース音がずっと1小節ずれているように聞こえるんですが!!どうなのこれ!?


【追加!2025.6.30】
TITINA(チチナ)/カルトン・ジャズバンド(昭和2年)
1927年のレコードです。フィリピンのバンドによる演奏だそうです。
なんとまあアップテンポ!!

羽衣 歌子 ♪ティティナ♪ (Titina) 1931年 78rpm record . Columbia . No. G - 241 phonograph
日本語歌詞の「ティティナ」。ウエイン コールマン ジャズバンドの演奏、羽衣歌子さんの歌です。1931年のレコード。

【年表的に並べてみると】

フォックストロットのダンスが流行る(1913年~)
   ↓
「ティティナ」が作られる(1917年、レオ・ダニデレフが作曲)
   ↓
「ティティナ」が世界的に流行、レコード売れる(1925年)
   ↓
日本でも楽譜発売(1928年)
   ↓
羽衣歌子さんが日本語歌詞で歌う(1931年)
   ↓
チャップリンが映画のなかで「ティティナ」を歌う(1936年「モダン・タイムス」)

と、ちゃんと時代が合致していますね。
(いやもうほんと、ワタクシ歴史ダメ子なもんで、こういうのを知ると、新鮮な驚きを感じます!いつも新鮮!)

【「東京ティティナ」もあるよ】

「ティティナ」を見つける少し前に、チャラン・ポ・ランタンが歌う「東京ティティナ」の動画を観ていました。
こちらは、“バイヨンの女王”と言われた生田恵子さんが歌った「東京ティティナ」(1953年)の、カバーです。
基本のメロディは「ティティナ」と同じですが、別のメロディが加わって、なんかアラビアっぽいところもあったりします。
(ちなみに、生田恵子さんは「私のマンドリン」という曲も歌っています。バックでマンドリンが演奏されています。)
ステイホーム中に出会ったチャラン・ポ・ランタンと、回りまわってこんなところでつながっているのも、またおもしろいものです。

約90年前のマンドリン楽譜!

楽譜の方に話を戻します。

フォックストロットから「ティティナ」に出会ったので、「ティティナ」の楽譜がないかなーと思って探してみました。
すると、前述の「日本の古本屋」というサイトに、あったのです。
流行当時の曲を楽譜にしたもの、しかもマンドリン二重奏のアレンジがあるなんて!ラッキー!!

この楽譜は、A3サイズを二つ折りにした、4ページものです。
表紙と裏表紙は、こちら↓
裏表紙に、楽譜カタログが載っています。
ヴァイオリンとマンドリンは同じ音域だから併用できるということで、「ヴァイオリン・マンドリン楽譜」としたのでしょう。
長唄、筝曲など日本の曲も、西洋の楽器で演奏するために楽譜が作られたのですね。

DSC_3361.JPG

↑こんなカタログも。
田中常彦氏は、日本マンドリン界の先駆者ですね!マンドリン向けに編曲した楽譜を、シンフォニー楽譜出版社から出していたのですね。へえー。
その左側、「映画伴奏曲集」も気になる~。
サイレント映画に合わせて、ヴァイオリンやマンドリンで伴奏して、弁士が語るってことでしょ?しかもこのほかに、ハーモニカの楽譜もあるなんて!
再現してみたら、おもしろいでしょうね。

裏表紙の左下↓

裏表紙の奥付。
定價 金二拾錢
昭和三年七月一日印刷
昭和三年七月五日發行
編者 シンフオニー樂譜出版社編輯部
印刷兼發行者 草野 茂
東京市牛込區西五軒町卅四
發行所 シンフオニー樂譜出版社
電話 牛込九三九番
振替東京六九一二七番

定価は20銭!ちなみに古本価格は、1000円でした。
電話は牛込939番!3桁しかありません。
ということは、電話交換手に「牛込939番につないでください」って、口頭で頼むってことでしょうか。
時代を感じるねえ~。

この楽譜を所有していたのは、はたしてヴァイオリン弾きか、マンドリン弾きか!?
…まあ、ヴァイオリン弾きなんだろうな。
楽譜に書かれたダウンとアップの記号は、ヴァイオリンのボウイングと思われます。マンドリンだと、もう少し違う書き方になると思いました。
とにかく、この楽譜を手に入れた人は、大流行曲が自分の手で弾ける!と喜んで二重奏したんだろうな…などと想像しながら、演奏しました。
ちなみに上の動画で服が変わっているのは、衣装替えというわけではなく、残暑厳しい日に汗だくで弾いていたからです(笑)。
マンドリン2は夕食前、マンドリン1は夕食後に撮りました。

大正~昭和初期の、マンドリン楽譜出版

「日本の古本屋」というサイトには、大正から昭和初期のヴァイオリン・マンドリン楽譜がたくさんあります。
ここで検索して注文すると、販売している古書店から商品が送られてくるという、通信販売のシステムです。
北海道にいても名古屋の古本屋から買えるんだから、これは便利です!

「マンドリン」「楽譜」で検索すると、大正~昭和初期にマンドリン楽譜を作っていた出版社が、実にたくさんあったことがわかります。
古書として現存し、販売されている楽譜だけでも、なんと20もあります!

・シンフォニー楽譜出版社
・白眉社
・チィピカル楽譜出版社
・ヒノ楽社
・親絃楽譜出版社
・富士楽譜出版社
・全音楽譜出版社
・模範楽譜出版社
・紅洋楽譜出版社
・好楽社
・阪根楽器店
・岡村書店
・新興音楽出版社
・トセン楽譜出版社
・春江堂
・ビクター出版社
・アサミ楽器店
・スワン楽譜出版社
・ユニオン出版社
・高井楽器店

曲目を見ると、当時の音楽の流行や、当時の人が西洋の楽器であるマンドリンでどんな曲を弾きたがっていたか、わかるんじゃないかなあ。
今もマンドリンで愛奏されている曲、今は知られていない曲など…。


今回、100年前の流行曲や古~い楽譜と出会ったことで、興味のあることがまた増えました。
フォックストロットの曲って、いいね!
砂漠を行く雰囲気がすぐにふっとぶ(笑)オリエンタル・フォックストロット「キャラバン」とか(ジャズの「キャラバン」ではない)、
プッチーニの曲をフォックストロットにしちゃった「チョーチョーサン」とか!
それってチャイニーズとごっちゃになってるのでは?という曲、ジャパニーズ・フォックストロット「チューチューサン」というのもあります!
ダンスのうきうきした感じが、好きです。自分は踊れませんが…。

あとは、大正~昭和初期の楽譜を、もっと弾いてみたいです。
「ナポリの夜」などもゲットしているので、まずはそれを弾こう!
シンフォニー楽譜出版社以外の楽譜も、弾いてみたいな。
そのころの“洋楽”を、もっと味わってみたいと思います。


【読んで楽しかった文章】

(紀要など。いずれもPDFでした)。

「セノオ楽譜からみる大正時代の洋楽受容」越懸澤 麻衣
 →竹久夢二の表紙画で楽譜が売れたというセノオ楽譜出版社は、当時ピアノやマンドリンやハーモニカが普及していたけれど、それらの楽譜は出さなかったんだって。
 →越懸澤センセイ、2023年に本を出しました!わたし買っちゃった♪


「大正期の通信教育受講者たちの音楽生活―大日本家庭音楽会の雑誌『家庭音楽』からー」梶野 絵奈
 →大正時代に、ヴァイオリンや琴、尺八、マンドリンなど、楽器の通信講座があったんだって!

「明治中期から大正期における洋楽器で日本伝統音楽を演奏する試みについて―楽譜による普及を考える―」上野 正章
 →楽譜裏表紙のカタログを見て、不思議だなと思っていたけれど、やっぱりそうだったのね。

…案の定、長文になってしまいました。
演奏の紹介というよりは、わたしのマンドリン(マニア)ライフの紹介だったかも!?

0 件のコメント: