今回の「大正~昭和初期のマンドリン楽譜を弾いてみた」シリーズは、前回に引き続き、昔の映画、つまりサイレント映画につける伴奏のための楽譜から一曲弾いてみました。
「現代映畫伴奏曲集 前編」(5)Haya ハヤ/mandolin
使用した楽譜は、今回もこれ!
映畫音樂研究會編 NO.3
「シンフオニー ヴァイオリン マンドリン 樂譜 現代映畫伴奏曲集 前編」

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昭和二年五月一日印刷
昭和二年五月三日發行
定價 金五拾錢
編者 映畫音樂研究會
印刷發行者 草野 茂
東京市牛込區西五軒町三十四番地
發行所 シンフオニー樂譜出版社
電話牛込六九〇九番
振替東京六九一二七番
楽譜には「HAYA ハヤ L.Maurice.」と書いてあります。
解説には「最も晴やかな氣分を表はす場面、例へば原野、公園、庭園等に嬉々として戯る場面等に用ふを可とす。」とあります。
曲そのものの解説ではなく、映画の中のこんな場面に使うとよい、という解説ですね。
いろいろ調べてみましたが、レコードや演奏の音源は見つからず、タイトルの意味もわかりませんでした。
楽譜は見つかりました!
Sam Fox Pub.Coから1921年に出版された
「Sam Fox library orchestra folio. No. 5.」という曲集に入っています。
その表紙には
「A collection of select compositions for hotel, cafe, theatre, moving picture and concert orchestras」
と書いてあり、ホテル、カフェ、劇場、映画、コンサートオーケストラ向けの曲を掲載した曲集であることがわかります。
このサイトには、5巻は1stヴァイオリンの楽譜しか無かったのですが、他の巻やIMSLPを見ると、ヴァイオリンだけでなくピアノや管楽器のパート譜、スコアもありました。楽団のみんなでこの曲集を使って、ホテルやカフェなどで演奏することを想定して作られた楽譜なんですね。
「Sam Fox library orchestra folio. No. 5.」の「ハヤ」(Haya)の楽譜を見ると、
「HAYA Oriental Entr’acte」と書いてありました。オリエンタル・アントラクトは「東洋風間奏曲」ってことかな。
作曲者はルイ・モーリス Louis Maurice。でもモーリスさんについて説明された文を見つけることはできませんでした。
編曲はJ.S.Zamecnikです。ザメクニックさんといえば、Sam Fox社から「Sam Fox MOVING PICTURE MUSIC」、つまりサイレント映画のピアノ伴奏曲集を出した人です。
楽団向けにモリモリ編曲して、すごいなこの人!
【追記】タイトル「HAYA」って何?
(2024.10.29記)
ふと思いついたのですが…
曲名の「HAYA」って、もしかしたら英語じゃないのかも!?
モーリスさんだからフランス語?もしくはそれ以外の外国語?
翻訳機能を使っていろいろ検索してみたら、かかったのはこれ!
「哈呀」(「ハヤ」と読む)、日本語で「笑(えみ)」。
もちろんこれだけでは確定できませんが、「オリエンタル・アントラクト(東洋風間奏曲)」という副題からしても、中国語という可能性はあるわ!
そう考えて改めて曲を聞くと、メロディは、西洋人のイメージする中国風なのかもしれないなあ…と思えてきました。
あ~、モーリスさんに聞いてみたいっ!!ほんとは何語なの!?
それにしても、なぜ日本で“映畫音楽研究會”(映画音楽研究会)が、ヴァイオリン・マンドリン向けに映画伴奏曲集を出したのでしょう?はたして需要はあったのか!?
古書として残っているのだから購入者はいたのでしょうが、日本で映画上映のときにこの楽譜が使われたのでしょうか?北海道ではどうなの?興味は尽きません。
YouTube「ikekomandolin」のチャンネルでは、「大正~昭和初期のマンドリン楽譜を弾いてみた」という再生リストも作っています。古書店から購入した、古いマンドリン楽譜を弾いています。どうぞごらんください♪
実は密かにたくらんでいるんですよ…「サイレント映画の楽士になりたい!」
あたらしい曲を作るのではなく、当時演奏されていた音楽を、マンドリンで演奏したいのです。でも、即興で弾くのは難しいし、画面に合わせて弾くのも難しいよねえ。短い映画の一場面でもいいから、合わせて演奏できたらいいなあ。
この動画は、そのための修行のひとつであり、劇伴音楽についての勉強の途中経過でもあります。
超スローペースなアプローチだけどさ。いくつになっても楽しいわ、こういうの!
そうそう、以前、柴田康太郎氏の「1920年代後半の時代劇映画における音楽伴奏の折衷性:和洋合奏・選曲・新作曲 」という論文を読んだのですが、この方、紙屋牧子氏、白井史人氏とともに無声映画の伴奏譜資料「ヒラノ・コレクション」の研究をしている方だったのね。楽士が実際に使った楽譜「ヒラノ・コレクション」ってあるんですね。知らなかった!
「おもちゃ映画ミュージアム」のサイトで見たのですが、ヒラノ・コレクションの楽譜を無声映画に合わせて演奏する“研究発表会”があったそうです。いいなあ~。そういうの見てみたい。
ほかの論文も読んでみようっと!→国立研究開発法人 科学技術振興機構のサイト「researchmap」柴田康太郎から、いろいろ読めます。
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